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旅情ミステリ [読書]

内田康夫という作家は名前を知っていたのみ。
作品には触れたことがなく、時々は、テレビドラマ化も
されていたが、私はテレビドラマというものを全く見ないので、
そちらも知ることなく、過ごしてきていた。

最近、にわかに興味を持ったのは、何のことはない、
今、追い込み作業中の「お菓子のうた」続編を書くにあたって、
必要に迫られたからだった。まったく、泥縄もいいところだ。

内田は旅情ミステリ作家として知られているらしい。
ますます、食指が動かなくなる。だいたい、あの手の小説
長いだろうし。ミステリ好きの相棒にとりあえず、
聞いてみる。彼は即座に言った。
「ああ、あれ、つまらないよ」
「え、どうしてつまらないの? なんて本を読んだの?」
「浅見光彦が出てくるやつ。展開が論理的じゃないんだ」

う~ん、頼りにはならぬようだ。自分で読むしかない。
(当たり前なのである。長いから、自分に合いそうにないから
と、他人に頼ろうとするのがいけないのだ。資料の渉猟に
王道はないのだ・・・。)

反省して、内田の小説をどさっと、図書館から借りてきた。
とにかく、ずいぶんたくさん置いてあって助かった。
まず最初はパラパラ・・・。そうするうちに・・・。

なかなか面白い部分も出てきて、のめりこんでしまって
いる自分に気が付いた。その一冊が
軽井沢殺人事件』である。でも、旅情もの、というのとは
かなり違う。それもそのはず、内田は小説家になってまもなく、
軽井沢に居をさだめ、ここを拠点に作家活動をしてきていた。
まさに、本拠地のことで、もう、面的に詳しい。

軽井沢についての知識が素晴らしく深く、その記述に
リアリティがあって面白いのである。
ただし、ミステリとしての筋の展開は・・・。
雑駁かな、という気がした。私はほかに二、三冊、
それもかなりのスピードで読んだので、印象批評を
出ないのだけれど、この作家はミステリという傘をさした、
地域情報ライターかも、という気がした。

『カラスの教科書』 [読書]

松原始著『カラスの教科書』(雷鳥社)が、めっぽう面白い。
著者は、大学で動物行動学を学んだ方で、
冒頭から、専門をカラスに選んだことを、いろいろ言い訳がましく
述べられているんだけれど、私は
「カラス、調べたくなる気持ち、当然じゃん」
と、返したくなる。カラスはかなり面白い鳥だと
思っているし。専門にして、一日中
追いかけてるなんて、羨ましくなるのだ。

そして著者の松原サンは、たちまち
「ほうら、カラスってこうなんだよ、面白いでしょ」
と展開してくる。ぼんやり面白い、とだけ思っていた私は、
専門的な裏付けを得て、鮮明に面白くなるのだった。

我が家の近くで見かけるのは、圧倒的にハシブトカラス。
でかくて、目力も凄い。先日は、庭で何やら激しい
羽ばたきの音がしたのでガラス越に見てみると、
二羽が激しくけんかしていた。塀の上にやや小さめの
一羽が見下ろしていたので、この雌を巡って争っていたらしい。

一羽が、ついにもう一羽をあおむけにし、足でぐいっと
おさえつけて顔のあたりを激しく突き始めた。不利な体勢の一羽は、
背中を地面の上で滑らせながら、逃れようと必死になっている。
身近に観たので、ものすごい迫力だった。

近くの公園で、ハト狩りをするカラスを観たこともある。
その様子が執拗で、凄く残酷なのに驚かされた。
松原サンは
  なまじ戦闘力が弱いために、仕留めるのに手間取ったり、
  見るからに弱い相手しか襲えないので、「残虐」「卑怯」の
  レッテルを貼られてしまう。
と、かなりカラス側を弁護している。
毎日何時間もカラスと向き合っていると、愛情も
深まるんだろうなあ、とちょっとじんとなった。

『資本主義と奴隷制』 [読書]

E・ウイリアムズ著『資本主義と奴隷制』(理論社・1968年刊)。
この本も、相棒の書棚からみつけた。
A5判 300ページの大著である。
最初は訳文に堅さと
難解さも感じられ、読みづらかったのだけれど、いつのまにか
引き込まれ、読み上げてしまっていた。

初版は1944年、ノースカロライナ大学出版部から刊行されている。
この本の基本的部分は、1911年トリニダード生まれの著者が
オックスフォードに学んだ時に学位論文として提出した文章から成るという。
となると、構想されたのは、1930年代後半頃か。

十七世紀から十九世紀にかけての西インド諸島の経済的、社会的状況を
各方面からデータを集めて詳細に分析、検討を加えている。
そして、結論として
「西インド諸島のプランテーションを中心に、独占と奴隷制により
商業的資本主義が発達、それがイギリスの産業資本主義を育て上げ、
最終的にはその産業資本主義が商業資本主義を滅ぼした」
と、明言している。

この論説については、例えば増田義郎『略奪の海 カリブ』(岩波新書)
などで知っていたけれど、最初の提言者がこのE・ウイリアムズであり、
二十世紀の前半にはすでに、世に問われていた論説だったとは、初めて知った。

ウイリアムズはアフリカ系トリニダード人で、欧米では差別的待遇も
受けたようである。そうした状況の中で、彼はほかにも数々の著書を刊行している。
『コロンブスからカストロまで』(岩波書店・2000年刊)など。
さらに、トリニダードの独立のために奔走し、
1961年に独立した後、81年に亡くなるまで首相を務めたというから、
驚かされる。まさに、学説をものし、そしてその理論を
実践に移した、そんな人生だったに違いない。

西インド諸島の歴史的ダイナミズムが一人の人生の中に
凝縮されている、と感じる。